「エンドレスキューブ」4

夢を見ていた。狩野の背中があって、女がいる。私の横顔が手前にある。夢の中の私は、泣いていない。まるで。
夢の自分と肉の自分が、引き裂かれて、悲鳴のように泣き叫んで起きた。
狩野の背中。いや誰の。

大学には行かなくなった。たぐりよせる夜が続いていた。焦燥感と怠堕に陶酔して。
ベットから出て裸になる。ユニットバスのシャワーを浴びる。細いウエスト。力のない肩。水が耳を塞いでゆく。

ふいに、脳裏をよぎる夢の断片。狩野の、違う。狩野ではない。女。
まっ赤な唇。笑う。笑う。裂ける。
誰の。よぎる。あの影、背中。
塞ぐ。耳を塞ぐ。
とっさにシャワーを止める。

映像は止まる。糸は切れた。