unconscious 脳

完成しない何かを書くADHD脳の片付かない本棚~Energy is circulating

「断層」3 海綿

どれだけの時が経ったのかわからない。数秒も経っていないのかもしれない。
ただ耳の中を蝉が支配し、時は停止したようだった。

公園の声が蝉を掻き消した時、少女は瞳を見開き後ろを見た。風が瞳を刺した。
駈けた。

ぬかるみに脚をとられながら、深い草地からこみ上げる湿気と汗がスカートにまとわりつく。
その腿の感覚が、知らず自分が変化してゆく予兆のようで、逃げるように駈けた。

瞳の中を残像が巡る。
それは果たして今見たものなのか。嘔吐感が少女をまた走らせた。


子供は記憶を意識しないのだろう。記憶の必要がないからだ。
ただ海綿のように柔軟に吸収されていく。
少女のその陶器の肌に埋め込まれた空気を貫くような真っすぐな瞳は何を見るのか。
いつしかその視界に余分なたっぷりとした脂肪のようなものが付着していき、それらが少女自身を形成し外面にさえ現れ、気付けば後戻り出来ないことを今は知る由もなかった。

少女がフェンスに辿り着き川岸を抜けた時、それと同時に染みのような残像をいとも簡単に密閉し、脳の底に放り込んだ。

住宅街の坂道の上に傾いた空があった。公園は長い影を作っていた。


海は深い。だが確実に底はある。